写真映えはしても、人が動かない理由
「Instagramでは“いいね”が増えたのに、実際の移住相談は増えない」
「PR動画をつくったけれど、問い合わせがゼロ」
そんな悩みを抱える自治体の担当者は少なくありません。
地域の魅力を伝えようと努力しても、“映え”る発信だけでは、なかなか人の心は動かないのが現実です。

なぜなら、地域外の人が求めているのは「景色」ではなく「暮らしの物語」だからです。
つまり、観光写真やキャッチコピーではなく、「ここでどんな日常が送れるのか」「どんな人が生きているのか」というリアリティとストーリーが求められています。
この記事では、移住・観光・企業進出など、地域外の関係人口を本気で増やすための3つの実践ステップを紹介します。
すぐに実行できるワークシートや、成功事例を交えながら、今すぐ現場で使える“戦略広報の型”をお伝えします。
ステップ1:ターゲット別「ペルソナ」設定ワークシート
● “誰に届けたいか”を決めない広報は、空を打つ
広報の出発点は、「誰に向けて何を伝えるか」を明確にすることです。
しかし多くの自治体広報が、「すべての人に来てほしい」と考えた瞬間、メッセージがぼやけてしまうという落とし穴に陥ります。
たとえば、移住希望者と観光客、企業進出を検討している経営者では、求める情報も行動のきっかけもまったく違います。
だからこそ、最初に行うべきは「ターゲットごとにペルソナを描く」ことです。
● ペルソナ設定の基本フレーム
以下のワークシートをもとに、チームで話し合いながら作成してみましょう。
| 項目 | 設定例(子育て世代の移住希望者) |
|---|---|
| 名前(仮) | 佐藤〇〇さん(33歳・東京在住) |
| 職業 | IT企業・在宅勤務/子ども2人 |
| 動機 | 自然の中で子育てしたい/生活コストを下げたい |
| 不安 | 教育環境・医療・交通の便 |
| 行動のきっかけ | SNSでの移住者ストーリー/現地体験ツアー |
| 情報源 | Instagram・YouTube・移住フェア |
| 必要な情報 | 移住支援制度・保育環境・仕事紹介・家賃相場 |
このように「ひとりの人物」を思い描くことで、発信内容の方向性が明確になります。
特に大切なのは、「何を伝えるか」だけでなく、「何を伝えないか」を決めること。
たとえば、「観光スポット」よりも「生活のしやすさ」を重視する人に向けては、風景写真ではなく地域のスーパーや公園の様子を紹介するほうが刺さります。

ステップ2:「生活のリアリティ」を伝えるストーリー設計
● “非日常”より、“日常”を描く
多くの地域広報が「観光地」や「名産品」を中心に発信します。
しかし、移住希望者や企業担当者が知りたいのは、“観光”ではなく“生活”。
だからこそ、「ここで働く」「ここで育てる」「ここで生きる」というリアルな日常を見せることが重要です。
たとえば、
- 保育園の送り迎え風景
- 地元の人が集まるカフェ
- フリーランスが働くサテライトオフィス
- 週末の地域イベントでの交流
こうした“生活の断片”こそが、「自分も住めるかもしれない」という想像を生みます。
● “人”の声が、最も強いコンテンツになる
移住や地域関係人口を増やすうえで、最大の鍵は「人」です。
どんなに美しい自然でも、最終的に人が動く理由は“人に共感したから”です。
たとえば、島根県海士町の「大人の島留学」では、実際に島で暮らす若者のストーリーをSNSや記事で発信。
「普通の人が、島でどう生きているのか」という等身大の物語が、多くの共感を生みました。
また、長野県阿智村では、「日本一の星空」という観光軸を起点に、“星を支える人の暮らし”まで広げたコンテンツづくりに成功しています。
その結果、「見に行くだけ」だった観光客が、「関わりたい」「住みたい」へと変化しました。
このように、“人を通して地域を見る”構造をつくると、発信の解像度が一気に上がります。
● 制度より「体験」を語る
もうひとつのポイントは、制度説明を「体験ベース」で語ることです。
たとえば、「子育て支援制度があります」ではなく、
「この制度を使って、保育園を選べたお母さんの声を紹介」する。
「空き家改修補助があります」ではなく、
「古民家をリノベしてカフェを開いた移住者の話を伝える」。
このように“制度×ストーリー”で伝えることで、読者は「自分にもできる」と感じやすくなります。
ステップ3:成功事例から学ぶ“人を軸にした”広報
● 阿智村(長野県):「星空」から「誇り」へ
阿智村は「日本一の星空」で有名になりましたが、成功の理由は景観の美しさだけではありません。
住民自身が「この星空を守り、伝える存在」として関わり、地域全体で“誇りの物語”を共有した点にあります。
つまり、“見る”観光から、“参加する”地域へ転換したのです。
● 海士町(島根県):「ないものはない」から始まる挑戦
「ないものはない」という逆説的なコピーで全国的に知られる海士町。
この言葉の背景には、「ないからこそつくる」「地域の人が主役になる」という強いメッセージがあります。
特に「大人の島留学」では、全国から若者が数か月間滞在し、地域の仕事・人・文化を体験。
そのリアルな声をnoteやYouTubeで発信することで、地域外の人が“自分ごと”として関われる環境をつくりました。
● 成功事例に共通する3つの要素
- 人を軸にした語り口(ストーリーテラーは地域の住民)
- 生活・仕事・交流の三位一体設計(暮らしの実感を伴う発信)
- 「見に行く」から「関わる」への設計(体験・参加コンテンツ化)
これらを意識するだけで、あなたの地域の広報にも“人が動く力”が宿ります。
「映える」から「伝わる」へ、そして「動かす」へ
本記事で紹介した3ステップを実践すれば、発信の目的が“見せる広報”から“動かす広報”へと変わります。
- ステップ1: ペルソナを明確にして、発信の方向性を定める
- ステップ2: 生活のリアリティを描き、ストーリーを届ける
- ステップ3: 成功事例から「人を軸にした型」を学び、自地域に応用する
地域広報の本質は、“魅力を伝える”ことではなく、“関わりたいと思わせる”こと。
そのためには、写真映えよりも「心に残る物語」を育てることが何より大切です。

次のステップ:すぐに始められる実践アクション
- 今週中に、3人のペルソナを設定する。
移住希望者、ワーケーション希望者、企業担当者など、ターゲットを明確に描いてみましょう。 - 「生活のリアリティ」を取材する。
地域住民・移住者・起業家など、1人でもいいので15分のインタビューを実施し、SNSまたはnoteで発信してみてください。 - 既存のコンテンツを“人中心”にリライトする。
風景だけの投稿に、誰の話なのか、どんな想いなのかを1文足すだけで、ストーリーは劇的に変わります。
MONWORLDの紹介
MONWORLDは、「想いを届ける広報」をテーマに、地方自治体・DMO・企業の広報戦略を支援しています。
ペルソナ設計、ストーリー制作、撮影、SNS運用、プレスリリース設計まで、ワンストップで伴走。
“映える”から“動かす”へ、あなたの地域の想いを物語に変えるお手伝いをしています。

