「広報はコスト」の呪縛を解く
「広報はどうしても後回しになりがち」–これは多くの会社で聞かれる言葉です。なぜなら、広報はすぐに売上につながるものではなく、「お金ばかりかかって成果が見えない」と思われやすいからです。
けれども本当にそうでしょうか?
たとえば、採用の場面を思い浮かべてください。求職者が応募を検討する時、給与や条件だけで決めるわけではありません。むしろ、「この会社は信頼できるか」「この人たちと働きたいか」という“感情”が大きく影響します。
広報は、その“信頼”を生み出すための活動です。社員のインタビュー記事を読んで「ここで働いてみたい」と感じる人がいます。オフィスの雰囲気が伝わる動画を見て「安心して応募できる」と思う人もいます。
つまり、広報は単なるコストではなく、応募を増やすための投資なのです。信頼が生まれるから応募が増え、内定承諾率も改善し、入社後の定着率まで上がっていきます。
では、どうすれば「攻めのPR」で採用に直結させられるのでしょうか?
1. 採用に直結する広報の役割を理解する
まずは広報の役割を整理してみましょう。採用における候補者の行動は、大きく分けると3つの段階に分かれます。
- 認知:「この会社の存在を知った」
- 共感:「この会社に共感した」
- 行動:「話を聞いてみたい/応募したい」
広報が成果を出せない時の多くは、この流れとPR施策が結びついていないことに原因があります。
たとえば、「SNSに投稿しているけど応募につながらない」という場合、実は「共感」をつくる段階の情報が不足していることが多いのです。逆に、求人票ばかり更新しても「認知」が弱ければ候補者はそもそも見てくれません。
だからこそ、広報は 認知→共感→行動 の流れを見据えて設計することが大切です。
さらに、それぞれの段階にKPIを設定すると効果が見えやすくなります。
- 認知:SNSリーチ数、記事PV数
- 共感:記事完読率、動画視聴率
- 行動:カジュアル面談数、応募数
「広報=数字とつながる」ことで、初めて投資対効果が見えてきます。
2. 候補者体験をデザインする
ここで一度、候補者の視点に立ってみましょう。
ある学生が通学中の電車でSNSを眺めています。そこで目にしたのは、社員が働く姿を映した15秒の動画。「なんだか楽しそう」と思い、アカウントをフォローしました。
昼休み、同じ会社のインタビュー記事が流れてきます。「なるほど、この仕事って社会の役に立つんだ」と共感が生まれました。夜、自宅で求人ページを見て、「仕事内容も分かったし、一度話を聞いてみようかな」と応募フォームを開きます。
この流れは偶然ではありません。広報が候補者の1日の行動を想定して、情報を体験の流れとして配置しているからです。
- SNS動画で「気になる」を生む
- ストーリー記事で「なるほど」を育てる
- 求人ページで「安心」に変える
こうして、候補者は自然に応募の一歩を踏み出すのです。

3. コンテンツの核は「人」と「現場」
攻めのPRにおいて最も力を発揮するのは、人と現場の物語です。
求職者は「どんな人と働くのか」を重視します。だからこそ、写真や記事で社員の声を伝えることが欠かせません。
ポイントは「背景→課題→挑戦→未来」というストーリーの流れに沿って語ることです。
たとえば:
- なぜこの仕事を選んだのか(背景)
- どんな課題に直面しているのか(課題)
- どう工夫して乗り越えているのか(挑戦)
- これから何を目指しているのか(未来)
こうした物語は、候補者の心にスッと入り込みます。数字や制度だけを並べるよりも、「一緒に働きたい」という感情を引き出しやすくなるのです。
4. 攻めのPRを回す仕組み
広報は一度やって終わりではなく、継続して回す仕組みが必要です。
チャネルごとに役割を整理してみましょう。
- SNS:まず認知を広げる
- オウンドメディア:次に共感を深める
- 求人LP:さらに行動につなげる
- 面談:信頼を固める
この流れを週単位のルーティンに落とし込みます。
たとえば、
- 月曜:現場のワンシーン写真
- 水曜:短尺の社員コメント動画
- 金曜:インタビュー記事
- 月末:まとめ記事
こうして「点」ではなく「線」で広報を展開することで、候補者に継続的に触れてもらえるようになります。
また、最初から大規模な企画をやる必要はありません。週1回の短尺動画や記事から始め、小さく速くテストしながら改善していく方が効果的です。

5. 成果を「数字」で見える化する
どれだけ良い記事を作っても、「なんとなく良かった」では経営陣を動かせません。必要なのは数字です。
たとえば、ある会社では採用LPの平均滞在時間が1分30秒から3分に伸びました。記事を読んだ候補者は、読んでいない候補者の2倍応募しやすくなりました。そして、面談辞退率も大幅に下がりました。
このように「到達」「反応」「行動」の3つの数字をセットで示すと、広報は採用に直結する投資だと経営陣に納得してもらえます。
6. 広報を「資産化」して未来へつなぐ
最後に大切なのは、広報を“その場限り”で終わらせず、資産として積み上げることです。
- よくある質問をまとめた記事
- 社内用語を解説した図解
- プロジェクトの振り返りレポート
これらは検索で見つかり、候補者が面談前に読むことで理解が深まります。その結果、面談の質が上がり、内定承諾率まで改善するのです。
つまり、広報は単なる施策ではなく、採用を支える自走装置になっていきます。
まとめ|攻めのPRが採用を変える
- 広報はコストではなく投資である
- 認知→共感→行動をつなげる体験設計が必要
- 人と現場のストーリーが候補者の心を動かす
- チャネルを連動させて線で広報を回す
- 小さく速くテストし、数字で投資効果を示す
- コンテンツを資産化して長期的に効果を得る
次のステップ|明日からできる3つのアクション
- 「社員の1日」記事を1本書く(写真3枚と短いインタビュー)
- 15秒の現場動画をSNSに投稿して候補者の目に触れるきっかけを作る
- 求人LPを修正し、応募導線を明確に整える
これだけでも「広報はコスト」という誤解から抜け出し、「広報は投資」へと変わり始めます。