1. なぜ今「物語性」が求められるのか
近年の広報において、単なる情報発信ではなく「物語性」のあるコンテンツが注目されています。特に中小企業や地域企業にとっては、広告予算に限りがある中で「共感」を得られるストーリーは、強力なブランド資産となります。
人は数字や理論だけでなく、感情に動かされて行動します。だからこそ、企業がなぜ存在するのか、どのような価値観で活動しているのかという“物語”に触れたとき、消費者や地域の人々、求職者の心が動きます。
インターネットやSNSの発達により、誰でもストーリーを発信できる今、ブランドの背景や想いを伝える広報戦略は、企業成長を支える不可欠な手法となっています。
2. ストーリーテリングの基本構造(起承転結+共感ポイント)
ストーリーテリングと聞くと、小説や映画を思い浮かべるかもしれません。しかし、企業広報においてはもっとシンプルでよく、以下の基本構造で伝えることで十分な共感を得られます。
【ストーリーフレーム図】
- 登場人物:誰の話か(創業者、社員、顧客など)
- 課題(起):どんな悩み・背景があったか
- 取り組み(承・転):どんな決断をして、どう行動したか
- 成果と未来(結):どんな結果が出て、今どこを目指しているか
- 共感ポイント:読者が「自分ごと」と感じられる点

この構造を意識すれば、難しい文章力がなくても「思い」が伝わる文章になります。特に、社員のストーリーや創業エピソード、顧客の成功事例などは、読む側に強い印象を残します。
3. 成功している企業の事例紹介(地元企業/スタートアップ)
● 地元の和菓子店が地域とのつながりでバズ(岐阜県・田中屋)
創業100年の老舗和菓子店が、店主の「おばあちゃんとの思い出」や「職人の技術への誇り」をInstagramで発信。投稿には、子どもの頃から食べていたという地元民の声が多数寄せられ、テレビにも取り上げられた。
ポイント:企業の物語が地域の人の「記憶」と結びついた成功事例。
● スタートアップ企業の「初めての失敗」が採用につながる(東京・SaaS開発会社)
創業当初の大失敗談や、資金繰りに悩んだエピソードをnoteで発信。「共感した」「一緒に挑戦したい」といったコメントが多く寄せられ、応募者数が前年比2.5倍に。
ポイント:成功よりも「等身大の挑戦」が若者の心を動かした事例。
● 介護業界の採用を救った職員のリアルストーリー(長野県・特養)
新卒の介護スタッフが「泣いた日」と「救われた瞬間」を記事として自ら執筆し、施設のSNSで発信。大きな反響を呼び、見学者・応募者が増加。内容は新聞にも取り上げられた。
ポイント:職員が主人公になることで「人間味」が伝わった好例。
4. 社内でストーリーを生み出すには?
物語の素材は、実は社内に豊富に眠っています。ただし、見つけて言語化するためには、次のような工夫が必要です。
● インタビューの実施
社員や顧客に「なぜここで働いているのか」「どんな困難をどう乗り越えたか」などを尋ねることで、ストーリーの種が見つかります。
● 社内ワークショップ
部署を超えたメンバーで「自社の物語」を共有する場を設けることで、新しい視点の発見にもつながります。
● コンテンツ化の担当を決める
ストーリーは発見するだけでなく、「形にする」人材が必要です。note執筆、SNS運用、動画編集など、誰が何を担うかの役割分担も重要です。
特別なクリエイターがいなくても、「伝えたい気持ち」があれば十分です。文字、写真、動画など、表現手法は多様です。
5. ストーリーをSNSやプレスリリースで展開する方法
物語は、発信してこそ広報としての意味を持ちます。以下に活用方法を紹介します。
● SNSでの展開
- Instagram:ビジュアルとセットで「日常」や「裏話」を投稿
- X(旧Twitter):短い言葉で“心に刺さる一言”を切り取って発信
- TikTok:動画でのストーリーテリング。職場の一日や社員の本音なども人気
● noteやブログでの長文展開
深い背景や思考を共有でき、SEOにも強い。「なぜこの事業をやるのか」などの根幹を語るのに最適。
● プレスリリースにストーリーを添える
商品情報だけでなく「開発者の想い」や「社会背景」を加えることで、メディアの興味を引きやすくなります。
● イベントや講演でも活用
自社代表や社員が、創業や挑戦の話をすることで、会場との一体感が生まれ、結果的にファンが増えます。
6. まとめ:ストーリーがビジネスを動かす鍵
情報があふれる今の時代、企業の「何を売るか」だけでなく「なぜそれをするのか」「誰がどんな思いでやっているのか」が重要視されるようになりました。
ストーリーは、差別化だけでなく「共感」という最大の資産を生み出します。そしてそれは、広告費を使わずとも、ブランド価値や採用力を高める大きな武器となります。
まずは、社内や自分の過去を見つめ、「伝えるべき物語」を見つけるところから始めてみてください。その一歩が、ビジネスの未来を変えるかもしれません。